源氏物語小屏風絵‐胡蝶‐

上:『源氏物語』の「胡蝶」巻で、紫の上は、秋好む中宮の「季の御読経」の催事に際して供華を行ったが、その時の使者として遣わされたのが、「迦陵頻」と「胡蝶」を舞う童子たちであった。庭の舞を見る画面奥の秋好む中宮と光源氏、春爛漫の六条院、西南の町である。

源氏物語小屏風絵-胡蝶-
(個人蔵、江戸初期)

下:「龍頭鷁首を、唐のよそひに、ことことしうしつらひて、楫取の棹さす童べ、皆みづら結ひて、唐土だたせて、さる大きなる池のなかにさし出でたれば、まことの見知らぬ国に来たらむここちして」―『源氏物語』「胡蝶」巻より

源氏物語小屏風絵‐胡蝶‐
部会報告
平成22年7月7日 第30回 水曜部会

【報告】
  参加者(敬称略):河地・大野・高橋(祐)・美濃島・熱田・田辺
  本日の発表は学部4年の田辺が担当致しました。範囲は38頁2行目~39頁4行目「源氏、左大臣の姫君と結婚」の後半部分です。前回に引き続き元服の儀の後宴の様子が描かれた後、舞台は左大臣邸に移り、源氏の君は左大臣の娘と結婚、左大臣の婿となります。
  この場面では様々な下賜品・献上品が登場します。下賜される衣類を「被き物(かづきもの)」、馬や鷹は「引出物(ひきいづもの)」と呼び、「引出物(ひきいづもの)」は今の「引出物(ひきでもの)」の基になった言葉で、馬を庭先に引き出して贈ったことに由来します。この「引出物(ひきいづもの)」は「被け物」よりも一段高い下賜品です。『花鳥余情』には臣下の家における元服の儀で馬と鷹を贈られた例が挙がっていますが、宮中の儀の例は見られませんでした。また、鷹をどこにとまらせるかも説が分かれているのですが、決め手を見出すことができませんでした。源氏物語中で他に元服の儀の様子をこれほど詳細に描いた場面は見られないのですが、それでもわからない部分が多いようです。
  帝と左大臣の和歌の内容は、源氏の君と左大臣の娘の結婚の意を確認し合うもので、どちらにも初元結に用いる紫の組紐が詠み込まれています。紫は「女性の異称」の意があるようです。先帝の四の宮が「藤壺」に入るのも、何か関係があるのでしょうか。
  また、38頁12行目後半~14行目半ばまでの部分は注意が必要です。注釈書によって文の切れ目や、14行目の「なかなか」が受ける内容が異なっています。ここからは「春宮の御元服のをりにも数まされり」の一文がどのような役割を果たしているかという問題点が浮かんでくるのですが、第一に「春宮を引き合いに出すことで源氏の君の元服の儀の盛大さを表現する」効果、第二に「この先まで続く源氏の君と春宮(後の朱雀)との(力)関係を予感させる」効果が考えられるように思います。
  発表後、「この部分はなんだか説明的で日記のようだ」という指摘がありました。大野先生によると、後の巻では説明臭くならないような文章でその場の状況が描かれているけれど、桐壷巻ではそこまでのレベルに至っていないのだそうです。(確か6月16日にもこのような話題が出ています。)源氏物語は、主人公の親世代からの因縁等も盛り込んだ、後世に語られるべき主人公の物語で、「場面」というものが非常に重視されています。しかし、一足飛びにそのレベルに達したのではなく、書いていく中で精巧な文章によって構築された物語になっていったと考えられるとのことでした。
  来週は「左右の大臣家の勢力について」です。

学部4年 田辺ゆかり


※資料(アクセスキーを入力してください)
  「桐壷巻」38p L.2~39p L.4