源氏物語小屏風絵‐胡蝶‐

上:『源氏物語』の「胡蝶」巻で、紫の上は、秋好む中宮の「季の御読経」の催事に際して供華を行ったが、その時の使者として遣わされたのが、「迦陵頻」と「胡蝶」を舞う童子たちであった。庭の舞を見る画面奥の秋好む中宮と光源氏、春爛漫の六条院、西南の町である。

源氏物語小屏風絵-胡蝶-
(個人蔵、江戸初期)

下:「龍頭鷁首を、唐のよそひに、ことことしうしつらひて、楫取の棹さす童べ、皆みづら結ひて、唐土だたせて、さる大きなる池のなかにさし出でたれば、まことの見知らぬ国に来たらむここちして」―『源氏物語』「胡蝶」巻より

源氏物語小屏風絵‐胡蝶‐
部会報告
平成22年6月23日 第28回 水曜部会

【報告】
  出席者は河地、古田、高橋(祐)、田辺、美濃島(敬称略)、発表者は大野でした。 担当箇所は、36頁4行目~37頁6行目「源氏の君の元服」。
  この元服の儀式は、源氏物語の中でもっとも詳細に書かれています。 これは、源氏物語の主人公たる光源氏の元服である、ということを考えれば、その比重が他と異なったものとなるのは当然のことと思われます。 また、父である桐壺帝がどれほど心を尽してこの儀式を執り行ったのか、というのが、たとえば「居起ちおぼしいとなみて」という言葉の用例を調べることによって、より鮮明になってきます。
  「大蔵卿、蔵人つかうまつる」の「蔵人」が、「くし上」の誤写から生じたものではないか、という説がありました。 本居宣長が主張し始めましたものですが、これについて、現存する古写本を調べたところ、「くし上」としているもの見当たらず、「蔵人」ともとからあったと考えるべきではないかと思われます。
  今回の箇所で、陽明文庫本という同じ源氏物語でも、ふだん私たちが読んでいるものとは異なった文章を持つ写本を紹介しました。
  たとえば、集成のテキストが、

  「この君の御童姿、いと変へま憂くおぼせど、十二にて御元服したまふ。居起ちおぼしいとなみて、限りある事に事を添へさせたまふ。」
  とあるのに対して、陽明文庫本では、

  「この君の御わらはすかたいとかへまうくおほせと十二になり給とし御くゑんふくの事ありみかとよろつにゐたちおほしいとなみてかきりある事にことをそへいみしきけうらをつくさせ給」

となっています。「居起ちおぼしいとなむ」行為をする主語が桐壺帝であることを明記したり、「事を添える」のあとに、「いみしきけうらをつくさせ給」と、その意味を説明するような一文を添えています。
  これらを見る限りでは、そのままで読んでいては、もう意味がわからなくなったため、説明するために書き加えていったとみるほうが、自然なのではないかと思いました。
  これらについては、いろいろと検討していかなればならないのですが、とりあえずは、源氏物語といってもいろいろな本文があるということを知っていただければと思います。

大野


※資料(アクセスキーを入力してください)
  「桐壷巻」36p L.4~37p L.6