源氏物語小屏風絵‐胡蝶‐

上:『源氏物語』の「胡蝶」巻で、紫の上は、秋好む中宮の「季の御読経」の催事に際して供華を行ったが、その時の使者として遣わされたのが、「迦陵頻」と「胡蝶」を舞う童子たちであった。庭の舞を見る画面奥の秋好む中宮と光源氏、春爛漫の六条院、西南の町である。

源氏物語小屏風絵-胡蝶-
(個人蔵、江戸初期)

下:「龍頭鷁首を、唐のよそひに、ことことしうしつらひて、楫取の棹さす童べ、皆みづら結ひて、唐土だたせて、さる大きなる池のなかにさし出でたれば、まことの見知らぬ国に来たらむここちして」―『源氏物語』「胡蝶」巻より

源氏物語小屏風絵‐胡蝶‐
部会報告
平成21年12月9日 第15回 水曜部会

【報告】
本日12月9日の水曜部会は、参加者は発表者の大野を含め6名でした。 卒論提出前ということで、4年生はさすがにおいでになれないようでした。 みなさま無事提出なさって、次回からおいでになるのを心待ちにしております。

さて、本日の発表ですが、靫負命婦に贈り物をし、彼女が帰参した後の桐壺更衣邸の状況と、 命婦帰参後の帝とその周囲の様子について描かれた場面を担当しました。 帰参する靫負命婦に、桐壺更衣の母君が贈り物をしますが、 「御装束一領、御髪上の調度めく物添へたまふ」とあるように、女性の装束一揃い、 さらに髪上げのお道具を添えたとあります。 源氏物語に出てくる「贈り物」は、たいがいお客が帰る時に差し上げるという例が多く、 さらに、装束などを贈ったついでに「添える」もの、が結構ポイントになっているということを用例を見ながら説明しました。

また、持参した資料などで、装束一揃いがどんなものか、さらに、髪上げの道具がどんなものかを紹介しました。 現在は、資料がカラーでいろいろありますので、物語の内容をイメージするためには、 やはり具体的なものがあったほうがよいかな、と思ってご用意いたしました。
仙石 宗久『十二単のはなし―現代の皇室の装い』オクターブ
特に、髪上げの道具のなかにある「釵」は、集成1巻巻末にある長恨歌にも出てくるように、 次の場面において帝がその長恨歌をもとに和歌を詠むための伏線ともなるものですから、 きちんと押さえておくべき点だと思われます。

当該個所に「若き人々」とあり、桐壺更衣に仕えていた女房たちのことに筆が及びます。 彼女らの心境、またおかれている立場などについては、 河地先生が、『源氏物語の鑑賞と基礎知識 桐壺』(至文堂)79頁において、 詳しくお書きになっていらっしゃるので、ぜひご覧になってください。

靫負命婦が帰参すると、帝が奥ゆかしい女房たち4,5人を侍らせてまだ起きていた、とあります。 この帝付きの女房たちは、「心にくき限り」と評されています。 「心にくし」は奥ゆかしく、上品でたしなみがある、あるいは風情があるといった意味ですが、 源氏物語の中では、特に最も高貴な女性やその周辺において用いられている形容詞です。 たとえば、先の東宮妃であった六条御息所の周辺では多用されていますし、逆に、軽々しく流行を追う右大臣家では、 「心にくく奥まりたるけはひはたちおくれ」と奥ゆかしい感じはないとあります。 桐壺更衣を失って哀しみにくれる帝の心中を察し、さりげない気配りのできるたしなみ深い女房たちがはべっている様子は、 次に命婦から事情を聞いた帝が哀しみを新たにし、長恨歌を下敷きにしながら哀傷歌を詠む場面を思い浮かべる上で欠かせない存在としてみることができるでしょう。 なかなか味わい深い場面として当時の読者には受け取られていたのではないかと思います。
つづいて、桐壺更衣母の和歌があり、ますます盛り上がりを見せていきます。

大野祐子

 


※資料(アクセスキーを入力してください)
  「桐壺」25p L.3~26p L.1